なぜ、早急なTPP参加に反対するのか
私は、今、拙速に参加を急いで抜き指しままならない状態になるよりも、オバマ大統領には時間が無いことを逆手に取って参加を見合わせることで圧力をかけると共に、TPPが決まった時点で、NAFTAで痛手を受けたカナダ他、TPPに参加していない中国やインドとの連携を考慮しながら、じっくり判断することが得策と考える。万一、日米安保による軍事的安全保障を人質に取って、米国がTPP受諾を迫るのであれば、我が国は毅然として再軍備の検討を行うべきであると考える。
1.国家主権が崩壊する。
ISD条項とは、外国企業にとって進出の邪魔になるような対象国の国内規制、すなわち「非関税障壁」がある場合、企業が対象国を訴えることができるというものである。「国際投資紛争解決センター」における裁判は再審制度の無いものであり、一旦判決が出ると確定となる。敗訴すると、政府は規制を変更するか、高額な賠償金を支払わざるを得ない。過去の実績を見ると、米企業側に有利な条項と言える。
この条項は、国民の代表が決めた国の法律や規制が外国企業の都合で変更されてしまうというものであり、国会議員の存在意義が無くなってしまうのみならず、国家主権の喪失にもなりかねない。
北米自由貿易協定(NAFTA)の実例:カナダ政府によるガソリンへの神経性有毒物質の添加を禁止した法律が「差別的である」として、アメリカの石油企業が3億5千万ドルの損害賠償を請求した。(カナダはTPP不参加を明言。)また、メキシコでは、サトウキビ以外の原料による砂糖に対して課税する法律を制定したところ、米国企業から訴えられて敗訴した。NAFTAにおける訴訟では、これまでに外国投資家に凡そ3,500万ドル支払われており、各国政府に対し総額数十億ドル相当の請求が数十件起こされている。
豪米FTAの実例:豪州では、タバコパッケージに肺がん等の喫煙による病気に関する写真の掲載を義務づけ、ロゴの使用を禁止する規制を定めたところ、米フィリップモリス社は投資協定に反するという理由により豪州政府を訴える動きを見せている。
韓米FTAの実例:韓国政府によって医薬品の許可の遅延で発生した損害は、米国企業に補償を行わねばいけない。また、米国のメーカーは自社の薬価が低く決定された場合、これを不満として政府に決定の見直しを求めることが可能。つまり、国が主体的に薬価を決めることが困難になっている。
2.国内法が「非関税障壁」として排除される結果、以下の事態が起こり得る。
①遺伝子組換え食品表示義務の廃止
・国民の知る権利、選ぶ権利が奪われる。消費者行政の後退する。
・安全性が十分保障されない食品を食べさせられ、健康に支障をきたす恐れがある。
・日本人は自分の食べたい品種の食べものを選ぶという権利「食料主権」を失う。
②健康保険制度の崩壊
「医療に利益至上主義を持ちこめ」というのがアメリカの要求である。最初、混合診療の解禁に始まり、診療報酬制度の廃止、国民皆保険制度の廃止、医療格差の拡大へと徐々に進んでいく可能性が高い。ハーバード医科大学による2002年調査では、年に4万5千人が無保険の為に死亡している。
また、国民皆保険の無い米国の現状を述べた全日本民医連のコラムでは、『「既往症」を理由にした加入拒否は、一三〇〇万人を超えるといわれます。医療保険をもたない米国民は四七〇〇万人に達し、それに「保険に加入していてもカバーが不十分」という人(推定二五〇〇万人)を加えると、米国民のおよそ四分の一が「医療保険難民」ということになります』という報告がある。
③外国企業による公共事業の寡占化
公共事業入札の条件に英語による入札書類の作成が義務づけられた場合、大手を除くほとんどの建築会社は、対応することが出来ないか、或は対応に時間を要するために市場を失い失業者が発生すると予想される。また、英文書を作成、管理、審査するための職員を地方自治体は新たに雇用する必要が有る。
結果として。英語に不慣れな日本国民が職を失うこと、新規雇用による地方自治体の財政圧迫が予想される。これらによって、公共事業に頼るところの大きい地方経済が壊滅する。また、これは単に職だけの問題に留まらず、公共機関での英語の常用が専らとなることによって、英語が我が国の主要言語になってしまう恐れがある。
④東北地方の再生復興の阻害
TPPによる第一次産業の競争激化は、国内農林漁業の衰退を招くのみならず、中小企業に対して投資に不安を与えることとなるため、第一次産業に負うところが大きい東北地方の復旧・再生を妨げる。また、大震災復興のための土木事業が外国企業に奪われた場合、東北再生の絶好のチャンスが失われる。
⑤郵政資金の国内運用義務の廃止
現在は1/5までしか認められていない郵政資金の海外運用が100%解禁になる。これによって、国内に再投資されていた350兆円ものお金が海外に流出して国内経済の衰退を招くのみならず、国債の引き受けについて大きな問題が発生する。
3.デフレ不況が更に深刻化し、失業者の増加し、内需が低下する可能性が高い。
海外から流入する安いモノやサービスによって物価下落が更に進行し、低所得者は恩恵を得たと錯覚するが、給与水準も低下するため、結果的にモノが売れなくなってデフレ不況が更に深刻化する。海外からの安い製品によって国内企業が倒産して失業者が増加すると共に、国外から流入する労働力によって国内労働者が駆逐され、失業が加速されると考えられる。ひいては、第一次産業を初めとする多くの分野で失業者が急増することが予想され、内需が急速に低下することが危惧される。
実際、NAFTAが締結されたことで、アメリカでは工場移転による失業者が約52万発生したともいわれ、条約で不利な立場であったメキシコでは、農業部門を中心に少なくとも人口の5分の1の130万人が失業者となった。FTA、TPPによる自由貿易は失業の輸入貿易と言うことができる。
4.例外なき関税撤廃で農業が壊滅する可能性が高く、食料自給率が危険な水準となる。
農林水産省試算資料によると、食料自給率は39%から13%にまで下がると試算されている。来るべき食糧難の時代に、この自給率では国家の安全は保障できない。さらに、モンサント社の特許種子に農業が依存するようになった場合、食料に関する安全保障は崩壊する。
・遺伝子組換え作物が販売できるようになり、同時に国内における商業栽培が開始される。
→遺伝子組換えの花粉が飛散し、在来の作物を遺伝子汚染する恐れがあるが、一旦汚染された場合、除去は永遠に不可能となる。
・昆虫等による受粉によって在来種の畑に組み替え遺伝子が波及した場合、特許を持つ企業(モンサント社等)は、「特許権侵害」として、在来種使用の農家を訴える。
→種を使用していないにも関わらず、在来種の農家が特許料を支払わされる。
→その結果、農家は毎年モンサント社の種を購入することなり、品種を選ぶ自由を失う。
→将来的に「自家採種の禁止」といったさらに理不尽な事態へも進みかねない。
(参考:アフガニスタンでは既にアメリカによって自家採種が法律で禁止されている。)
※TPPに熱心な日本経済団体連合会の米倉会長は、米国種子大手会社であるモンサント社と長期的協力関係を持つ住友化学株式会社代表取締役会長である。
5.交渉に参加した場合、途中で離脱できないことが明白である。
交渉参加後、日本にとって不利とわかった場合には離脱すればよいとの論もあるが、不可能であることは明確である。なぜならば、日本に有利でなくても、安全保障を日米安保に依存しきっている以上、関係悪化を避けなくてはならず、不平等な条件を飲まざるを得なくなる。
実際に、韓国とアメリカのFTA交渉を見ても、途中離脱が不可能であることは実証済みであり、韓国側はアメリカとのFTA交渉について、「主要な争点において、我々が得たものは何もない。すべてアメリカの都合のいいように譲ってやることになった」と表明している。
6.デメリットは数えきれないほどあるが、一般国民にとってのメリットはない。
米国と日本の関係を考えた場合、米国が関税を無くしたからといって、輸出が増える見込みはない。なぜならば、既に十分に低い関税(アメリカの場合、自動車2.5%、テレビは5%)となっている為であり、生産拠点をアメリカに持つ企業が多い為である。また、日本から輸出する場合、為替がはるかに大きく影響しているため、米国以外のTPP締結国が関税を撤廃したとしても、TPPに為替不均衡是正の条項が無い以上、恩恵を得る事は出来ない。
ISD条項を、日本企業の海外進出に有利だと見る向きもあるが、理不尽なやり方を強引に押し通す、この手法には倫理上問題があるのみならず、諸外国との友好関係を破綻させ、軍隊を持たない我が国の安全保障を脅かす。
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